東京高等裁判所 平成7年(行ケ)110号 判決 1996年10月31日
静岡県田方郡大仁町大仁570番地
原告
株式会社テック
同代表者代表取締役
久保光生
同訴訟代理人弁護士
大村金次郎
同弁理士
樺澤襄
同
島宗正見
同
樺澤聡
オーストリア国
エイ 8200 グライスドルフ ポストファッハ 8
被告
ビンダー ウント コンパニ アクチェンゲゼルシャフト
同代表者代表取締役
ゲオルグ ペルツル
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 原告は、「特許庁が、平成7年3月3日、昭和63年審判第9539号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、次のとおり述べた。
1 特許庁における手続の経緯
被告は、「BIVI-TEC」の文字を横書してなり、第9類「産業機械器具、動力機械器具、風水力機械器具、事務用機械器具、その他の機械器具で他の類に属しないもの、これらの部品および附属品、機械要素」を指定商品とする登録第2018498号商標(昭和60年12月25日出願、同63年1月26日登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は、被告を被請求人として、昭和63年5月20日、本件商標の登録無効審判を請求し、昭和63年審判第9539号事件として審理されたが、平成7年3月3日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年3月20日原告に送達された。
2 審決の理由の要点
(1) 本件商標の構成、指定商品、登録の経緯は前項記載のとおであって、有効に存続するものである。
(2) 請求人(原告)が引用する登録第913697号商標(以下「引用A商標」という。」)は、別紙に表示したとおりの構成よりなり、昭和44年3月19日登録出願、同46年7月29日に設定登録されたものであり、同じく、登録第1091188号商標(以下「引用B商標」という。)は、「TEC」の文字よりなり、昭和46年12月2日登録出願、同49年10月1日に設定登録されたものであり、同じく、登録第1091189号商標(以下「引用C商標」という。)は、「テック」の文字よりなり、昭和46年12月2日登録出願、同49年10月1日に設定登録されたものであり、引用の各商標は、いずれも第9類「産業機械器具、動力機械器具(電動機を除く)、風水力機械器具、事務用機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)、その他の機械器具で他の類に属しないもの、これらの部品及び附属品(他の類に属するものを除く)、機械要素」を指定商品とするものである。
(3) 請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証の1ないし甲第8号証の2を提出した。
<1> 本件商標は、「BIVI」と「TEC」の両文字がハイフンを挟んで通常よりも充分な間隔をもって左右に配置されており、看者をして「BIVI」と「TEC」の2つの部分よりなるものと容易に理解せしめるものである。
そして、観念についてみると、「BIVI」及び「TEC」の両文字は、特定の観念を有しない造語と認識されるのを自然とするものである。また、両文字がハイフンにより結合されたとしても、それによって一連の特定の観念が生じるものではない。
さらに、称呼についてみると、本件商標より生ずる称呼は、第2音の「ビ」の音は破裂音でしかも濁音であることから響きの強い音であり、また、第3音「テッ」は促音を伴い明瞭に強く発音され、聴者に強く印象づけられる音である。してみれば、本件商標は、ハイフンで結合された構成と相俟って、「ビビ」と「テック」との間は明瞭な段落をもって「ビビテック」と称呼されるのを自然とする。
したがって、「BIVI」と「TEC」とは常に一体不可分でなければならないという特段の事由を何ら有していないものであるから、簡易迅速を旨とする商取引の実際において「BIVI」と「TEC」の文字とは、それぞれ分離され、独立して自他商品の識別標識として機能し、「TEC」の文字をもって取引に当たる場合も決して少なくなく、「TEC」の文字から「テック」の称呼が生ずるものである。
なお、このことは、甲第5号証ないし甲第8号証の2に示す審査・審判例によって明らかである。
<2> 引用A商標、引用B商標、引用C商標は、その構成に徴し「テック」の称呼が生じることは明らかである。
<3> してみると、本件商標は、引用の各商標と商標において類似し、かつ、その指定商品においても同一又は類似の商品に使用するものであるから、商標法4条1項11号に該当し、同法46条1項1号により、その登録を無効とすべきものである。
(4) 被請求人(被告)は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第10号証を提出した。
<1> 本件商標は、中央にハイフンを挟んで同大同一書体にて「BIVI-TEC」として調和よく構成されてなるものであり、かかる構成からして、そのいずれかの部分のみが特別に重視され、あるいは軽視されるような構成になっていない。また、本件商標より生ずる称呼「ビビテック」も促音「ッ」を挟んで僅かに4音で構成されてなるものであり、冗長に亘るようなものではなく、これを一気に「ビビテック」と称呼するに何ら不都合はない。したがって、かかる本件商標を故意に分離して称呼しなければならない客観的理由は存在しない。
<2> 被請求人の上記主張を裏付けるものとして、乙第1号証ないし乙第10号証に係る審判例を挙げる。
<3> 請求人が甲第5号証ないし甲第8号証として提出した審査・審判例についてみると、いずれも事例を異にするものであり、本件には当てはまらないというべきである。
<4> 以上の通りであるから、同大、同書体でもって僅か4音という手短な称呼を有する本件商標からは、不可分一体の「ビビテック」の称呼のみが生ずるものであり、請求人の主張には理由がない。したがって、答弁の趣旨通りの審決を求める。
(5) よって按ずるに、本件商標は、「BIVI-TEC」の文字よりなるものであるが、該構成中前半部の「BIVI」の文字部分と同後半部の「TEC」の文字部分とは、共に特定の観念の生じ難い造語よりなるものとみるのが相当であり、両部分がハイフンを介しているものであるとしても、全体として同書・同大・等間隔に表示されており、かつ、これより生ずる称呼も僅かに5音という構成であって無理なく一連に称呼し得るものであることよりすれば、両部分に主従軽重の差があるものと認めることはできない。他に、両部分を分離して称呼・観念しなければならない特段の事由は見出し得ないところである。
そうとすれば、本件商標は、一体不可分のものとして把握・認識されるというべきであるから、「BIVI-TEC」の文字に相応して「ビビテック」の一連の称呼のみを生ずるものというべきであり、これより単なる「テック」の称呼を生ずるものということはできない。
これに対して、引用各商標は、それぞれの構成文字「tec」「TEC」「テック」に徴して、「テック」又は「ティーイーシー」の称呼を生ずるものとみるのが自然である。
してみれば、本件商標より生ずる称呼「ビビテック」と引用各商標より生ずる「テック」又は「ティーイーシー」とは、相違する各音の音質の差・音構成の差等により、それぞれ全体として一連に称呼するも、その語調・語感が相違したものとなるから、称呼上において充分区別し得るものと認められる。さらに、両者は、その外観・観念上においても相紛れるおそれはない。
なお、請求人は、甲第5号証ないし甲第8号証(枝番を含む)に係る審査・審判事例をもって、本件商標は、構成中前半部の「BIVI」の文字部分と同後半部の「TEC」の文字部分とに分離されるものである旨主張するが、これらの事例は、いずれも本件とは事案を異にするものであり、本件に適切なものということができない。むしろ、乙第1号証に係る審判例が、その構成に鑑み参考とされ得るものというべきであるから、請求人の主張は採用することができない。
したがって、本件商標と引用各商標とは、外観・称呼・観念のいずれにおいても非類似の商標と認められるから、本件商標は、商標法4条1項11号に違反して登録されたものではなく、同法46条1項により、その登録を無効にすることはできない。
3 審決を取り消すべき事由
本件商標及び引用各商標は、ともに「テック」の称呼を生じるものであるから、称呼上類似する商標であり、また、本件商標及び引用各商標の指定商品が同一又は類似の関係にあることも明らかであるから、本件商標は商標法4条1項11号の規定に該当する。
しかるに、本件商標と引用各商標は非類似であるとした審決は違法であり、取り消されるべきである。
第2 被告は、適式の呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。
第3 証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおり。
理由
1 弁論の全趣旨により真正にしたものと認められる甲第1号証、第2号証の1・2、及び弁論の全趣旨によれば、請求の原因1及び2の事実が認められる。
2 そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。
原告は、本件商標は「テック」の称呼を生じる旨主張する。
しかし、本件商標を構成する「BIVI」の文字部分と「TEC」の文字部分とは、ともに特定の観念を生じない造語であり、それぞれが標章としても特徴的であること、上記両文字部分はハイフンで結合されているが、全体として同書体・同大・等間隔に表示されていること、本件商標より生ずる称呼「ビビテック」は促音「ッ」を含めて僅か5音で構成されていて、無理なく一気に称呼し得るものであることからすると、上記両文字部分に主従軽重の差はなく、簡易迅速を旨とする商取引の実際を考慮しても、通常、上記両文字部分がそれぞれに分離され、独立して自他商品の識別標識として機能し、また、称呼されることはないものと認めるのが相当であり、本件各証拠を検討しても、両文字部分が分離して称呼される特段の事由が存することを見出すことはできず、原告の上記主張は採用できない。
したがって、本件商標と引用各商標は称呼上類似する旨の原告の主張は採用できず、原告主張の取消事由は理由がない。
3 よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
(別紙)
<省略>